5歳までに「親に話しかけられた回数」で生じる、その後の圧倒的な語彙力の差

和田秀樹

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知性は言葉によって育まれます。特に幼児期における、家庭での豊富な会話は、子どもが言葉を理解し、使いこなす力を育む重要な要素です。しかし、語彙力を伸ばすためには、ただ言葉の量を増やすだけでは不十分で、質の高い会話が必要です。この記事では、家庭でできる語彙力を育てるための具体的な方法と、日常会話の重要性について探ります。

※本稿は、和田秀樹・著『5歳の壁 語彙力で手に入れる一生ものの思考力』(小学館)から一部抜粋・編集したものです。

親にたくさん話しかけられた子と、そうでない子の語彙力の差

知性はまわりの言葉によって育ちます。そのため、やはり会話が少ない家庭より多い家庭のほうが、子どもの語彙力を伸ばすためにはいいわけです。

幼児期の子どもには親がよく話しかけることが大事ですが、やはり大切なのは、その中身や質です。言葉の量だけでなく、内容の豊かさも重要なのです。

実際に乳幼児期の親子の会話は子どもの将来の語彙力に関わってくることが複数の調査で明らかになっています。

たとえば、1990年代にアメリカで行われた大規模な調査によると、幼児期に親からたくさん話しかけられていた子どもは、そうでない子どもに比べて3000万語も多い語彙を獲得していた、とする書籍も出版されました。

そして、保護者から肯定的な声かけをされていた子どもはそうでない子と比べて学童期以降の学力が高い傾向があったことも明らかになっています(『3000万語の格差 赤ちゃんの脳をつくる、親と保育者の話しかけ』ダナ・サスキンド著・明石書店)。

言葉の量だけでなく、その質も大事だということです。子どもの人格を否定するような言葉が子どもにとってよくないことは想像に難くありませんが、たとえば芸能ニュースとか、このタレントさんがかわいいといった、いわゆるお茶の間会話にも注意が必要です。家庭の教養レベルは会話に現れますが、やはり他人の噂話ばかりしていても子どもは賢くなりません。

日常生活の中での語彙教育

ですから、もしも子どもがテレビに出ているお笑い芸人を見て笑っていたら、ただ笑って終わりではなく、そのどこが面白いと感じたのかを親子で話し合ってみるのもいいでしょう。子どもは「この人、大人なのに裸で踊っているのが面白いんだよ」と言うかもしれません。

おバカなことを人前でやることが楽しいと感じる人もいますが、一方で、そういうことをした結果、本当にバカにされてしまったり、いじめられてしまったりする人もいる、という話に持っていくのもいいでしょう。自分の行動が周囲にどんな影響を及ぼすのかを振り返る重要性という話につながるかもしれません。

同じお笑い芸人を見るのでも、子どもが感じたことをきっかけに会話を広げていくことで、親子の会話の質が変わってきます。

相手が子どもでも幼児語を使わないくてもよい?

ある著名な投資家は、子どもにはマネー教育をすべきだと話しています。私にはそれが正しいことかどうかはわかりませんが、少なくともそういう教育をしている家庭の子のほうが、将来は起業する可能性や資産運用で利益を生み出す可能性は高いと思います。

家庭でそういう話をしているうちに、経済や金融の世界に興味を持つようになり、日経新聞で知らない経済用語を調べてみようという話になっていきます。小さな頃は全部わからなくても、その世界に親しんでいるうちに興味を持つようになっていくわけです。

また、相手が誰であれ、基本的にわかりやすく話をすることは大事ですが、相手が子どもだからといって、ことさら幼児語で話す必要はありません。「ワンワン」ではなくて「犬」でいいし、「ブーブー」ではなくて「車」「自動車」でいいのです。

前述のように、子どもというのは、大人が思っているより理解できることもありますし、何となく理解できるという子もいます。

まずはいろいろな話をしてみることです。

そして、大人の世界の会話に早く参加できる子の方が、やはりものを深く考えられるようになり、社会にも早くから興味を持ちます。親以外の大人と話をするのも怖くなくなるでしょう。

このように、いろいろな会話をして言葉を知るうち、どのシチュエーションで、どんなニュアンスで使われる言葉かがどんどんわかってきます。

知性というものは言葉によって育ちますが、子どもでも「裏金」という一つの言葉から、税金や政治や公共事業など社会の成り立ちを少しずつ知っていくのです。
子どもの将来を考えたら、「こまっしゃくれている」上等、なのです。

5歳の壁: 語彙力で手に入れる、一生ものの思考力(和田秀樹)

5歳の壁: 語彙力で手に入れる、一生ものの思考力(和田秀樹、小学館刊)

子どもの人生を左右する「壁」は5歳にあり。壁突破のキーワードは「語彙力」。
「やばい」「すごい」で済ませる会話が普及し、言葉が不要な環境に子どもたちは慣れています。しかし、考える力を身につけるためには語彙力は不可欠です。就学前までに、大人が子どもとしっかり向き合い、絵本を読んだり、読み書きを教えたり、知性あふれる会話をしたりすることで、子どもの語彙力は飛躍的に伸びます。語彙が増えれば、見える世界の解像度が上がります。
本書では、受験学習法・幼児教育のプロである和田秀樹先生が、5歳までに語彙力を飛躍的に伸ばす具体的なおうちレッスンを紹介します。